感想『ハンチバック』

気になっていた芥川賞受賞作『ハンチバック』、読了。

重度障害者である市川沙央さんが、同じ病気を持つ主人公の視点で書いた小説。

まず、一番大事なこととして、小説としてテンポが良い、読み易い。それはとても大事なことだ。

この本は主人公の釈華(しゃか)いう女性以外の人を掘り下げて描くことをしていないが、唯一、ヘルパーの田中という男と釈華のやり取りにページが割かれ、男が女を介助することや、弱者はどちらなのかということなど、いろいろな対立を浮き立たせる生々しいものになっている。

先天性ミオパチーという筋肉が落ちていく病気の小説を読みながら、(比べるようもないことだが)自分の老化もまた努力を放棄すれば緩やかに筋肉が落ちていくことなんだよなあ。と、思い、そんなに主人公と自分は、立場にいかほどの違いがあるのか、などと思ったりもした。

この病気は一度落ちた筋肉は二度と戻らない。トイレに手すりをつけたら、もう二度と手すりなしでは立ち上がれなくなる、といった描写があり、だからギリギリまで体力を使って主人公は死に物狂いに机に向かう。

この小説を読むまで忘れていた。人類が便利と引き換えに失った体の機能はずいぶんと多いじゃあないか。

私も、最近は自分の肉体から失われていくものを数えることが増えた。早かれ遅かれ肉体とはそうやって朽ちていくものだから、私は釈華の生き様から、改めて残りの人生の過ごし方について考えることになった。