先日、いつもの美容院で、男性オーナーと二人きりの個室サロンで髪を切ってもらっていたときのこと。
「そういえば、この前、友近さん(芸人)の出る火曜サスペンスを見ていたら、友近さんがトイレに行くことを『花を摘みに行ってくる』って言ってたんですよ。僕、それまで知らなくて調べたんです。山本さん、使ったことあります?」
と聞かれたので、
「表現として存在するのは知ってるけど、自分で言ったことはないよ」
と答えた。
ところが、年配の女性客が多いそのオーナーは、「花を摘む」という隠語がすっかり気に入ってしまったらしく、それなり以上の年齢のお客さんに会うたびに「知ってます?」と聞いて回っているらしい。
「いや、私は実際に使ったこともないし、誰かが使っているのを聞いたこともないよ」
と、もう一度言う。
私の中では、「着物を着た楚々とした女性がお見合いの席で、恥じらいながら『ちょっと花を摘んでまいります』と言う」くらいのイメージで、現実に耳にしたことは一度もない。「I love you.」の代わりに「月が綺麗ですね」と表現する人に人生で一度も出会ったことがない、というぐらいに、ない。
その話を家で夫にしたところ、
「もちろん知ってるよ。登山が発祥の言い回しだもん!」
と、普段、日本語の言い回しが下手くそな夫にしては得意げな返事が返ってきた。しかも、男性版まであるという。男性が山で用を足しに行くときは、「雉を撃ってくる」と言うらしい。 実際、「ちょっと雉撃ってくる」と、ごく自然に使うのだそうだ。
私は、美容院のオーナーが「年配の女性が使う上品な言葉なんでしょ?」というイメージでニヤニヤしながら話していたのに、実は山男が使ってるなんてことになったから面白いなあと思ったのであった。








