踊り場を乗り越える

私はもともといろいろな趣味に手を出す傾向があるのだが、常々思っているのは「道具を揃える時期が一番楽しい」ということだ。初学者がやみくもにあり合わせの道具で始めた趣味が、次第に要領を得てきて、道具の導入も相まって自分の成長が実感できる時期は楽しくてしょうがない。

だがそこから長い長い初級の踊り場に乗り上げてしまうことは多いと思う。成長曲線がフラットになってしまう。そういうときに腐らずに(あるいは腐ったとしても)、コツコツと続けられるか、辞めてしまうか、分かれちゃうよね。と、スポーツをしている夫とよく話をする。

先日、私が習っているテニススクールのクラスに久しぶりに参加した人がいた。最初、見慣れない人だな、新しくこのクラスに来た人かなと思っていたのだが、よく見るとそれは以前から知っている人だった。なぜ気づかなかったのかと言えば彼女は少しふっくらしていて、また技術も私が認識していた彼女のレベルより下手になっているように見えたのだ。

レッスンが終わってレッスン生の女性何人かで立ち話をしたときに、その方に「久しぶりね。どうしていたの?」と訊いたところ、「実は捻挫をしたの。それで3ヶ月休んでいたんだけど、その間にやることと言ったら食べることばっかりだったから3キロも太っちゃった」と言うのだった。続けて「なんだか最近もうやる気がなくて。コーチは声をかけてくれないし、初級から上のクラスになかなか上がれないままだし。同じようにやる気をなくした友達が3人も辞めちゃったのよね」とのこと。

みんな、「いやいや。私もそうよ。でもね…」などと自身の体験談を話し始めた。彼女は「私だけじゃないのね。もうちょっと頑張ってみるね」と言ってそのまま解散となった。果たして彼女はテニスを続けられるかしら。あるいはもう辞めちゃうのかな。

成長なんて真剣に考えずに「ただただ楽しいから」と言って続けられる人もいるけど、そうじゃない人も多い。でもそこを何とか切り抜けられれば新しい場所に行けるんだと思う。踊り場にたどり着いた人だけがその資格を持ってる。

私がテニスを始めて三年半ほどの間に「あの時の自分、よく乗り切ったなあ」と思った出来事と言えば、最初にスクールに所属した時のクラス、なんと、私以外のレッスン生が中学生男子三人だけだった時だ。運動部に所属していない彼らは挨拶する習慣もなくて、こちらが話しかけても(もじもじして)なかなか返事も返ってこない。そんな中学生男子たちと一年もの間レッスンを受けていたのだ。後で考えればクラス替えを希望したら良かったなと思ったのだが、当時はなぜかモヤモヤしつつもそのクラスに通い続けた。さぞかし中学生男子たちもやりにくかったことだろうなあと当時を振り返る。

でもまあ、わりとそういう、「アウェイな場所で何とか自分を奮い立たせて辛抱してコツコツと一ヶ所で努力した」という経験も今の自分を支えているのではないかと思っている。