イマジナリー・マスダ

前回のエントリに登場されたが、ブランディングではscaleという会社に大変お世話になった。ミヤサコ社長とマスダさんというお二人でされている会社であるが、ミヤサコ社長はイベント設営を得意とし、マスダさんはザ・クリエイターである。

お二方とのやり取りは結構大変な時もあった。ミヤサコ社長とは契約の商習慣の違いからちょっと行き違いがあったりしたので、ミヤサコ社長もフィネット相手にさぞ手を焼いたことであろう。

それよりもマスダさんである。デザインを巡ってクリエイター的な見地から落としどころが見えず私とのやり取りが膠着状態になることもしばしばあった。特に私が大変だったのはエントランスデザインである。デザインはマスダさんだが、施工は他社の施工業者が担当した。電気工事屋や塗装屋とも打ち合わせを調整するのは私である。デザインを具現化する部分を、神戸にいるマスダさんは私に委ねるしかなく、私も各業者さんとの作業途中に何度も電話をしたり画像を送ったりしてマスダさんに確認を取った。倉敷と神戸という離れた状況での仕事で、私もマスダさんのデザインを実現するのに一生懸命だったが、たぶん、マスダさんも私が業者さんから納得のクオリティを引き出すことを信じてくれていたと思う。

マスダさんはエントランス工事も終わって一ヶ月以上経ってようやく5月最後の金曜日に社名変更の打ち上げの際に弊社に立ち寄ってその仕上がりを見ることになった。エントランスには自分のデザインが具現化されたものを直に見て感動して立ち尽くすマスダさんの姿があった。うちのエントランス写真を撮るために直前でミヤサコ社長におねだりして新しいカメラのレンズも経費で買ってもらったと言っていた。

クリエイターとして妥協しない。そんな姿勢を私はマスダさんから教わった。私もたいがい妥協しないほうであったが、その姿勢に間違いはなかったと確信することができた。誇れる仕事というのはそうやって生まれるのだ。

結果、私の心にはイマジナリー・マスダが住み着いたのである。普段はおとなしいのであるが、私が何か業者さんに発注するときにビジュアル的なセンスが欠落したものを納品されるとそこは急に顔が曇る。「仮に私がここでOKを出しても、私の心のマスダがなんと言うかな?」と考える。心のマスダは渋い顔をして絶対に首を縦に振らない。

私は、イマジナリー・マスダに代わって業者さんにダメ出しをするのである。

そんなマスダさんがミヤサコ社長におねだりした新しいレンズで撮った弊社のエントランスと外看板の画像が届いた。やっぱり私のiPhoneで撮るよりずっと良い。良いレンズ、欲しくなりますよね?