「泣く場所」と「切り替え方」

人から相談されることがずいぶんと増えた。そういう年齢ってことなんだろう。最初は笑いながら雑談をしているのに、相手がすっと表情が変わるときがあって、そこから相談が始まることがちょいちょいある。

昨日も私を訪ねてきた人がいた。私と似ている境遇で、IT関連のお父さまの会社の後継者という位置づけの女性のかたなのだが、ご本人はエンジニアではないので、エンジニアであるお父さまとの関係、ひいては会社の未来について自信を持てずに悩んでいらっしゃる。

事業継承。うん。大変だね。こればっかりは当事者としての経験がないと迂闊なアドバイスは絶対できない領域だと思う。どこにも大なり小なりいろいろあるものだが、その中でも中小零細企業でほぼワンマンである男親から娘が継承するのはかなり困難を極める。ボスが男性から女性に変わるのを嫌がる従業員も多い。

選択肢としては、親がどこかできちんと身を退いてちゃんとサポートに回る(これがベスト)、娘が継承者になることから降りる、そして、一番きついのが、「闘い続けながら(あるいはじっと言いなりになって)親が死ぬのを待つ」である。私自身は、表面的には親が退いてくれたが、内部ではさまざまな衝突が、父が死ぬまであったと思う。これのつらいところは、なんなら親の死を願ってしまう、というところまで追いつめられることがあることだ。

そんな状況に置かれている彼女は、私と二人きりになった時、少し、泣いた。

彼女とどんな話をしたかは書けないのだが、その場その場のメンタルを立て直す応急処置として、「落ち込んだり悩んだりを引きずらない」という方法をお伝えした。

私が最近やっているのは、「ぐるぐる考えてもどうしようもないこと」は紙に書いて開けられない貯金箱に入れて、入れた時点でそのことを考えるのを止める、という方法だ。ちょっとした才能への嫉妬、理不尽なクレーム、未来への不安、知人の家庭トラブル。今の私にどうしようもないことは、貯金箱に入れてしまったら考えない。パン(手を叩く)。おしまい。

それから、沈んだ気持ちを少し上げるために、「つらいことがあったら開けよう」と思って、セボンスターという子供向けのアクセサリーの入ったお菓子をストックしている。自分の中できらきらしたものに憧れがあった女児の心に一瞬戻るのだ。

冒頭の彼女には、私のストックのセボンスターをひとつあげた。もちろん、彼女の気分が上がるのはこんなものではないかもしれないけれど。

彼女は「娘に取られちゃいそう」と言ったのだけど、「これは娘さんじゃなくて、自分のために開けてね。開けた数だけ、乗り越えたということだよ」と言った。

一時間ちょっと話したあと、落ち着きを取り戻した彼女は「今日、泣いて良かった」と言いながら帰って行った。

女性が泣くのを嫌がる男性はいる。「泣けば許されると思っているんだろう」とか「女はすぐ泣くから」とか言う。女性が泣くのは、大きな声で怒られる恐怖とか、社会の中で無力なことを突き付けられての悔しさだったりする。

別に私は、泣けばいい、と思っている。ただの体の生理反応だから。

そして、泣く男性もたくさん見てきた。別にいいのだ。泣くのを恥ずかしいと思わなくていい。

だから彼女が「泣いて良かった」と言ったことは良かったと思うし、また外で泣けなければうちで泣いたらいいよ、と思っている。もちろん、すべての悩める男性も、女性も。泣ける相手、泣ける場所があったら良いと思っている。